在宅血液透析を知る

透析患者のQOL向上をめざして

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レポート

目標

折角,ある程度自由に透析条件をコントロール出来るHHDを始める以上,極普通にしかも元気に生活できる程度の「目標」を設定したいものです. :-)

ここでは,先達の方々のアドバイスなども踏まえて,可能なレベルの透析目標を導き出す試算をしてみました.

施設透析の壁

透析という治療に寄与する効果は,高い順に

頻度 > 時間 > 効率

だと言われています。

  1. 週3回よりも4回,5回がいい
  2. 4時間よりも5時間,6時間がいい
  3. ダイアライザークリアランスQB(血流量)等が高いほどいい

と言うことを現しています.これは患者の体格に合わせて「回数を多く」し「時間を長く」し「効率を高く」する事が望ましいと言うことなんですが,当然と言えば当然ですね.体重が40kgの患者と90kgの患者が同じ透析療法で良い訳がありません. :-/

施設透析では,診療報酬の改訂の度に施設側の都合だけで内容を狭義に解釈し,毎回のように透析治療の簡素化が為されています.つまり,

  • 14回/月迄しか手技料を取れないので週3回以下に抑えようとする
  • 時間区分が無くなったので,より固定費分を抑えられる様,時間短縮を図る
  • 今年の改訂でダイアライザーの区分が増えたため,より保険との差益が多いタイプを採用する

と言う傾向が当たり前になりつつあります. :-?

と言うことは,よりよい透析の為の効果の高い「頻度」,「時間」を施設透析に求めることが難しくなってきていると言えます.

勿論,透析治療に熱意を持って注力して下さっている施設も少なからず存在していますので,施設透析では絶対「頻度」「時間」の効果を見込めないと言うわけでは決してありません.

逆に,施設側が可能であっても患者側に時間的制約があったりして,この様な頻回,長時間透析を受入れ難い面も大いにあります.

そこで専ら取られる方策が,3.の「効率」をあげる事になるのですが,これも各施設毎に考えがまちまちで,体重(体力)別に高流量(450ml/min程度まで)を設定されるところや,一律に標準[意味不明?]血流量(150~200ml/min程度)を設定されるところが有ります.前にも書きましたが,体重40kgの患者も90kgの患者も同じ血流量:200ml/minでいいと思われますか? :-D

なお,高血流量についていけない患者の場合は,HDFと言う方法が有効なのですが,これもまた特殊な用途でしか保険適用され無いという縛りがあって,施設毎の考えもいろいろです.逆の言い方をすれば,高血流量でないとHDF療法をする意味がないとも言えますが・・・ ;-)

この様に,どうしても施設透析には種々の「壁」が立ちはだかっているのが現状で,「頻度,時間」の壁をクリアできるのが,HHDだと言えます.HHDでは毎日の「頻回透析」も可能ですし,就寝中に行う「長時間透析」も可能です.この辺を,別の視点から考察してみましょう.

HDPからの考察

日頃からThe-Internetでお世話になっているかわせみクリニックの鈴木先生の弁を借りると,HDP(Hemo-Dialysis Product)と言う指標を用いて適正な透析と言うのを評価するアイデア(Dr. Scribner,Dr. Oreopoulos両氏が提唱)があるそうです.それによると,

HDP = [1回の透析時間] × [1週の透析回数] × [1週の透析回数]

70以上を適正な透析と評価出来そうだと提唱されている様です1).ですから通常行われている施設透析の一般的な例では

4時間透析を週3回行う「一般的透析」 → HDP = 4x3x3 = 36

にしかなりませんが,人件費(固定費)を節減できるHHDであれば

2時間透析を週6回行う「頻回透析」  → HDP = 2x6x6 = 72
8時間透析を週3回行う「長時間透析」 → HDP = 8x3x3 = 72

と言うことが可能となります。十分に適正なHDPをクリア出来ることになります.

因みに,正常な腎機能で有れば24時間毎日透析していることになりますから

24時間透析を毎日行っている腎臓   → HDP = 24x7x7 = 1176

と,正に桁違いの数値になってしまいます.やはり自然には勝てません.

このことから,HDPが70を越えるというとは,正常な腎機能と比較して

70/1176 = 0.06 i.e. 6%以上

と言うことになります.この数字は第4期の腎不全(末期腎不全)の腎機能:10%以下よりも少ない数字ですので,透析導入を考慮している時期の腎不全患者状態と言うことに.

つまり透析をしなくても大丈夫なギリギリの時期を維持できる程度と言うことで,これでもまだまだ「十分な透析」とは呼べないのかも知れません.理想的には10%以上の第3期腎不全程度にまで戻したいところです.そうするためには

1176x0.1 = 118 i.e. HDP = 2.5x7x7 = 122 , 7.5x4x4 = 120

程度の透析をすればいいことになりますので,毎日2.5時間の頻回透析や週4回7.5時間の長時間透析が目標と言うことになります.

私の場合,当面は5時間透析を週4回と計画していますので,

HDP = 5x4x4 = 80

となり,いわゆる施設透析にありがちな「その日暮らしの透析2)」よりはマシかな?と言った程度でしょうか? :-P

この様なことが,HHDであれば実現可能になると言う訳です. ^_^

透析量

一方,別の視点で,松江腎クリニックの草刈先生によると,週3回透析のHDFの場合になりますが

好ましい透析量 = 体重の1.5倍程度の血液を透析する

と言うことになるそうです.

ですから,DW64kgの私が4時間で施設透析をする場合は

64[kg]x1.5x1000[ml/kg] / (4[hrs]x60[min/hrs]) = 400[ml/min]

となりますので,QB = 400 の流量で透析すると良いことになります.

HDでもこれだけのQBとなると覚悟が要りそうですが,早期からこの様な「出来る限り十分な」透析を続けていれば可能な数値で,HDFなら尚「楽な透析」を実感するらしいです. :-)

ところで,この数値を「週3回の透析」に置き換えて考えると,

(64x1.5x1000)[ml/回]x3[回/週] = 288000[ml/週]

を処理(透析)すると良いと言ういい方が出来ます.ですから毎日2.5時間行った場合のHHDで考えると,

288000[ml/週]/(2.5[hrs]x60[min/hrs]x7[回/週]) = 274[ml/min]

つまり,QB=280 で「好ましい透析量」を得られることになります.ただHHDの場合は施設透析と違って,血流量の増加と共に種々のリスク3)が増えると予想されますので,出来ればQBは250ml/min程度に抑えたいものです.特段,根拠がある訳ではありませんが・・・ :-P 逆に言えば,

透析施設で直ぐに行えるよりよい透析は,高血流量透析である

となる訳ですが・・・

と言うことで,私の透析計画

QB = 250, 4回/週

の目標透析時間は

288000[ml/週]/(250[ml]x60[min/hrs]x4[回/週]) = 4.8[hrs]

から,約5時間となります.コレなら可能ですね. :-)

HDPでも5時間で4回/週と計画しましたから,これでスッキリ,いやバッチリ! =)

驚いたことに就寝時を利用した長時間透析であれば,4回/週で

28800[ml/週]/(8x60x4) = 150[ml/min]

となりますから,如何に長時間透析が「緩やかな透析」かが判ります4)

再掲しますと,

{(体重g) x 1.5 x 3}/{(時間min)x(回数)}→ QB:血流量

で得られる血流量が,目標とする血流量ということになります.

効果

HHDに移行したその日から,

  • 最も効果の高い「頻回透析」が可能 → 長時間拘束がダメな人向け
  • 最も緩やかな「長時間透析」が可能 → 介助者の負担を軽減したい人向け

となります。その結果,毒素と共に栄養分まで抜けていく恐れがあるため,

  • よく食べる

必要が出てきます。結果的に「太る」事になりますから,

  • よく動く(運動する)

事が大事で,程良い筋肉量が保たれDWを増す必要まで出てきてしまいます. 透析液とのバランスの関係から,塩分コントロールがし易くなり,

  • のどの渇きが軽減する→無くなる
  • 普通に水分補給できる

様になります。ですから結局は

楽な透析生活を送ることが出来る

と言うQOLの向上効果が期待できます.

効率

現在,一般的にKt/Vと言う値を用いて透析効率を見ていますが,その基準となっている透析条件が「週3回透析」ですので,用いられている様々な値が「二日空き」の検査データになっています.

ところがHHDの様な場合は,週4回以上に回数を増やされるケースが多いため,この「二日空き」状態でのデータが得られません.長くて「一日空き」になります.

そこで,このKt/Vをより一般化した $stdKt/V$ と言う指標が考え出されました.

この $stdKt/V$ はまさに「一週間の透析量」5)から透析効率を見る計算式で,こんな感じです.

  

  • ちょっと煩雑すぎますので,近似式として以下の式を提案します.

$eKt/V$,$spKt/V$,$stdKt/V$ は,それぞれ $Kt/Ve$,$Kt/Vsp$,$Kt/Vstd$ と読んで,

$Kt/Ve ≒ Kt/Vsp = -ln(Ce/Cs)$ ・・・ [ $Cs$ : 透析前BUN濃度, $Ce$ : 透析後BUN濃度 ]

  • 一方,クリアペース率 $(URR:尿素除去率) = 1-Ce/Cs$ より

\(1-exp(-Kt/Ve) ≒ 1-exp\{ln(Ce/Cs)\} = 1-Ce/Cs = URR,T = 168/t\) と置くと

$$ Kt/Vstd = \frac{URR・T}{T/(N-1) + URR/(Kt/Vsp)} $$


ke!san-[健康の計算]-[健康診断][自作式]-[生活編]に,Kt/V 関連の計算式を登録しました.Kt/Vstd にも対応しています.

以下のタグを利用していただいても結構です.

<a href="https://keisan.casio.jp/exec/user/1313975059">透析量:Kt/V</a>
1)
現行の型にはまった透析治療に警鐘を鳴らす目的で逆説的に提案された指標とも言える
2)
前出の鈴木先生が提唱
3)
脱針などによる漏血時にパニックを起こして,復旧に時間が掛かり過ぎる為,失血が多くなりやすい等々
5)
10080 [min/week] = 60 [min/hr] x 24 [hr/day] x 7 [day/week]
report/objective.txt · 最終更新: 2024/03/03 09:25 by K.Y.