某掲示板で繰り広げられた(もはや過去形 )血液流量に対する議論ですが,ここでもちょっと考えてみたいと思います。
そもそも,透析する目的は何か?
こう考えてみると,「何々が標準だ」とか「エビデンスは」等という議論は無意味な感じがします。そう言う話は学者さん達で賑わっておればいい。そう思いません?
透析する目的は「腎機能を失した患者が,健常者並の生活(人生)が送れること」ですよね。
透析治療を受ける中で,「疲れ易い」「息切れがする」「血圧が高い」「汗が出ない」「浮腫が出る」「皮膚掻痒感」「足のイライラ」「関節が痛む」「血色が悪い」等と言った症状を如何に和らげるか,解消していくか。それが目的。
ここに一人の患者がいます。毎日涙ぐましい努力をしながら食事制限を克服し,体重増加も1kg未満。スタッフから「よく頑張っておられますねぇ」「その調子だと,週2回透析で済みますよ」と励まされる。
そうして,透析が始まると,彼の患者はいろんな不定愁訴を訴える。
スタッフは「足を上げましょうか」「温度を下げると血圧が安定しますよ」「何某さんにはこの血流量はきつすぎますねぇ,150ml/minに下げましょう」「何某さんは頑張っておられるから,ムリをしなくても良いですよ。今日はここで(3時間半)終わりにしましょう」
こうして彼の患者は,「今日はラッキーだったなぁ。スタッフの皆さんも親切だしなぁ」と感謝しつつ,フラフラになりながら帰路につく・・・そして,次の透析日まで苦しい生活が続く・・・
こんな治療が,実は「現実」だったりするんです。透析治療という束縛から,少しでも逃避できるようにと言うのが治療方針のように思えます。
さて,この患者さんはどうすれば「健常者のような生活」が送れるようになるでしょう。勿論,他の疾病は無いものとしてですが。
恐らくこの患者さんは「無理しすぎ」て,体力が低下し,長年の「透析不足」によるいろんな弊害が出てきているようです。勿論,本人はそんな風には思っていませんが・・・
透析不足から来る体調不良は,ついつい「透析するから辛い」と思うようになります。私もそうでした。
先ず,この「透析不足」→「体調が優れない」→「食事制限して頑張る」→「基礎体力が低下していく」→「透析が辛い」→「透析量を緩和する」→「透析不足」・・・と言う「魔の連鎖」から脱却しなければなりません。
一番良いのは腎臓移植でしょうが,ま,そんな夢のような話はおいといて・・・透析量を如何に「生体腎機能」に近づけるかと言う事になりますよね。
そこで第一に「回数」。これが一番手っ取り早くて最も効果が有るのですが,彼の患者さんは「透析が辛い」→「週2回になればいいなぁ」と思っています。なかなか週4回に応じないでしょう。勿論,医療機関側も,主に人員(人件費)の問題で週4回以上は行おうとしませんがね。
次に効果が期待できるのが「時間」。これまた,彼の患者は「3時間半」に縮まったことを「ラッキー」と思っているぐらいですから,ましてや4時間半以上に延長など考えても見ないことでしょう。更に,先と同じ理由で医療機関が4時間半以上に踏み切ることは期待薄ですが・・・
もう,こうなってくると為す術がありません。
いや,有るみたいです。「透析量」を増やせばいいのだから,回数と時間に制約があるのあるのなら「効率を上げる」と言う手が・・・この,効率を上げるというのは,例えばダイアライザーの表面積を多くするとか,血液流量を増やす等にあたりますが,体力が低下した彼の患者には,血液流量のアップにはついて来られないかも知れません。
血液流量を増やしたいが,血圧が低下するなどの副作用が見られる場合,如何に「穏やかに」透析を進めるか・・・これにピッタリなのが「HDF:血液透析濾過」と言う治療方法なんです。
HDだけだと,いろんな「電解物質」がゴッソリ抜けていきますから,体内がアンバランスになって「しんどい」となりますが,HDFの場合「血液を薄めてから透析する」或いは「透析してから血液を薄める」と言う効果もあって,体内のアンバランスが軽減されるみたいです。だから,血液流量が増やせる。
こうして,「HDFに切り換える」→「血液流量を増やす」→「透析効率が向上する」→「透析不足が少し改善される」→「透析が少し楽になる」→「体力が少し回復する」→「更に透析量を増やせる」→「透析効率が更に向上する」→「透析不足が更に改善される」となって,ついには「透析が楽だ」→「体力が出てきた」→「お腹が減って仕方がない」→「しっかり食べる」→「しっかり透析する」と言う連鎖が生まれて行くわけです。
もう,こうなってくると,彼の患者も「透析量を増やせば透析が楽になり,生活も普通に出来るみたいだ」と気付くようになり,時間延長や回数アップという欲も出てきます。体力が改善してきていますから,もはやHDFに頼らずともHDだけで血液流量アップに対応できる身体に戻っています。
こうやって考えてみると,そもそも「透析不足」にならなければ,こんな手順は踏まなくても良かったと言うことになるわけで,最初から「回数」,「時間」,「効率」を重視した透析治療を行えばいいと言うことになりますよね。
そうは言っても,生活している以上「時間的制約」はついて廻ります。
ですから,取り敢えずは「効率」を上げた透析を行って,更にもっとしっかりした透析を目指すという方向付けになるわけですねぇ・・・そう,先ずは血液流量をアップして体力維持を心がける。
なんで45kgと90kgの患者さんが同じ「200ml/min,4時間,週3回」透析なんでしょう?・・・もう,皆さんなら判りますよね,この間違い。これが「魔の連鎖」の始まりなんです。
コメント
長年の透析不足により,すっかり心臓が弱っていたり,ドライウエイトが過剰に少なくなっていたり,血圧が不安定な状態だったりすると,血液流量の「急激な」アップに身体が順応できない場合が有るようです。
この方は,透析期間が未だ少ないことから,この様な症状は無いとは思いますが,最初は「一週間に10ml/minずつの増量」程度のペースでゆっくりと進められると良いと思います。
その為にも,無理なドライウエイト設定だけはお気をつけ下さい。・・・私はこれで,透析終盤にダウンする事が数回有りました。
あ,そうそう・・・湿疹が出るというのでちょっと気になるのは,透析液やダイアライザーの膜材質などを確認されるのも良いかも知れません。プライミング時に流す生食の量が少なかったり,透析液自体の「汚れ」に敏感に反応されている場合もあります。
ただ,こういう内容を,いきなりスタッフに話すと「プライド」とやらに障ってしまい,気まずい空気になることがちょくちょく・・・ま,上手く立ち回ることも必要です。
私のケースでは,施設を変わった直後の何回かは,足首の廻りが痒くて仕方ないと言う状態になりました。時間と共に解消しましたが,未だに謎です。
早速、見させて頂いたようです☆
お勉強&納得したようで、血流量UPの打診を考えてるようですぅ^^
これからも、私共々宜しくお願い致しますm(_ _)m
ありがとうございます☆
こんな時間ですが、早速、知らせたいと思います^^
to-seki さん,どうぞどうぞ。そういう方の少しでもお役に立てればと思います。
恐らく,CAPD後という事で「ゆる?い」HDなんでしょうね。まだ,1年だけのCAPDですから,普通にHD導入すればいいようにも思いますが・・・
今は,担当医師が方針を持って進めておられるのかもしれませんが,透析にやり過ぎは無いと信じて,主治医に相談されるようおススメ下さい。
capdをして1年経たないうちに、腹膜が駄目になりHDをされてる方がいて、毎回目眩や湿疹等に悩まされてる方がいます><
私はHDをした事がまだ無いので、何てコメント差し上げればいいのか
いつも悩んでしまいます…
zeroさんの今回の記事を読んで、ぜひその方にも見て頂きたいので
アドレス等、教えても宜しいですか?
母数が違いますから確かな比較にはなりませんが,2002年からの増加傾向で見ると,
+11.1%, +3.6%, +11.4%, +15.7%, +22.4%
となって,やはり今回の増加率は「来た?ッ!」って感じですかねぇ?
しかし,今のままではスタッフの負担がバカにならないと思うのですが・・・体制が整わないまま,ムリに始めてしまった施設なんかが有るかも知れないと,勘ぐってしまいます。
HHDを推進する手当が必要な気もしますが・・・
hiraさん,
> 透析医学会の2007年末現況報告によると、HHD者は180名を超えましたよ。
エッ!そうなんですか!・・・一気に,増えましたねぇ。
いままで 0.05% 程度でしたが,これで 0.06% 程度にはアップしたかな?
確かに,受入(教育)施設も漸次増えていますから,それだけ移行患者も増えているということでしょうか?・・・そう言えば,導入もそこそこに直ぐHHDに移行されるケースも有ると聞きますが,どうなんでしょう?
いや,Dr.kusakariの仰りたいことは,まだいろいろあろうかとは思いますが,現に血流量が250→200に下がってから,一気に効率が落ちましたから血流量の影響は身に浸みて感じています。
その分,時間を延ばすなり回数を増やすようにと主治医は指導されます。有り難いことです。
血流量が下がったことで,最近「頻回透析」を真面目に考えるようになりましたから,これはこれで良いのでしょうけど・・・Dr.kusakariなら「頻回長時間高血流量」を勧められるでしょうね。
元気になっていく患者を診て,自らも生き甲斐を感じる。医者冥利に尽きると言うか,医者をやってて良かったと感じられる瞬間でしょうね。・・・ただ,夜更かしはダメよ!
> 来年は透析医学会、HDF研究会に登壇しようと思います。
ざわめきが聞こえてきます。楽しみですね。
> 厚労省がHDFが駄目だと言っても、法廷闘争してでもやり通します。
HDFでバンバン血液流量を上げて居れば,あんな苦しい思いはしなかったろうにと悔やまれます。こういう治療のありがたみを知らずに,苦しんでいる患者は沢山いると思います。生殺しです。
透析医学会の2007年末現況報告によると、HHD者は180名を超えましたよ。
ちょいと最近、血流アップをサボっていたので、先週から、特に高齢者の方々でアップしていきました。
80歳でも400は平気です。
来年は透析医学会、HDF研究会に登壇しようと思います。
厚労省がHDFが駄目だと言っても、法廷闘争してでもやり通します。
言いたい事をまとめて頂いて、とても嬉しいです。
HHDに関しては回数と時間が無制限(本人次第)という事がメリットですね。
HHDさせているのに、いろいろ、制限しないでよと、思いますね。
さて、地獄の連鎖から脱するために、取り敢えずは『元気になってもらう』事が大事ですね。
その上で、あ、いけるかもしれないと患者に思ってもらうことが大事ですね。意欲を持ってもらう。 之に成功したら、時間アップ、血流アップはたやすいです。 中には回数アップも受け入れられる。
周りの患者が元気だと、この医者の言う事を聞いてみようかと、思う人が増えるでしょう。
周りの皆が青色吐息だと、頑張ってもしょうがないと思う人が多いでしょう。
QB300で5時間を4回やっている50kg未満の方、誰も透析者だと気がつきませんね。
QB400で6時間やっている人達も。
医師としても経営者としても、大成功しているという実感が有りますね。 この成功を多くの医療者に体験してもらいたいですね。 そのことが多くの患者の幸福に繋がります。