前の記事で,週4では週3と同じ土俵でKt/VやURR指標を評価できないと言う結論に達しましたが,改めて週4以上での「頻回透析と透析量」を考えてみたいと思います。
透析百科 で示された計算式によると Kt/Vurea は single pool と two pool (今は,equilibrated と言うらしい)による方法があります。
大まかな変換式:
Kt/Vsp = (Kt/Veq-0.03)/(1-0.6/t)
Kt/Veq=Kt/Vsp -0.6(Kt/Vsp)/t + 0.03
で求められますので,Kt/Veq より単純な式
Kt/Vsp = ?ln( Ce/Cs?0.008・t )+(4?3.5・Ce/Cs)・ΔBW/BW
を使うことが多いのですが,これでも煩雑ですので,約20%程低めに出る事を知った上で次の簡便式を用いることにします。
Kt/V =?ln(Ce / Cs) ,Cs:前BUN値,Ce:後BUN値
URR は単純に
URR = (Cs?Ce) / Cs?×100
ですね。
で,この評価式の根拠となっている透析は,あくまでも4時間×週3回の透析であり,厳密には,前回の透析後の採血と,その68時間後(24×3?4)の透析前の採血よるBUN値を採用しているのですが,ややこしいので通常は,前回透析後より68時間後の前BUN値:Csと,更に4時間後の後BUN値:Ceとしているようです。
今回は,この「空き時間」の差が問題となっていますので,あえて以下のように元の定義に戻して考えます。
Ce:前回透析直後のBUN値,Cs:今回透析直前のBUN値
更に,この間の経過時間をPTとして頻回透析を週3回の「標準?」回数に置き換える試みをしてみます。つまり,頻回透析を週3回透析に「ならす」訳です。
何故そうするかというと,「PT時間掛けて体内でBUNがどれだけ増えたか」とする事によって,週4回透析を「もし週3回で行っていたなら・・・」と仮定できるからです。
この標準化した Cs を「CsN」とすれば,以下のように統一できます。
週3回 → CsN = Cs × (68/PT), PT = 68
週4回 → CsN = Cs × (68/PT), PT =?44
これで,一見「週n回透析に対応する万能式」が出来たかの様に見えますが,これだけではまだダメです。週7回にはこのまま適用できますが,週5回,週6回には適用できないことが判ります。PTが44のままですから,同一の評価になってしまうからです。週4回と週6回が同じと言うのは有り得ませんから。
そこで更に,週3回透析にならしてみることにしてみます。ここでは透析時間を4時間としていますが,汎用的には?68 = (24[時間/日] × 3[日] – 4[時間] ) と言うことになります。更に採血条件も追加します。
週3回 → CsN = Cs × (68 / PT)?× (3 / 3),PT = 68
週4回 → CsN = Cs × (68 / PT) × (4 / 3),PT = 44
週5回 → CsN = Cs × (68 / PT) × (5 / 3),PT = 44
週6回 → CsN = Cs × (68 / PT) × (6 / 3),PT = 44
週7回 → CsN = Cs × (68 / PT) × (7 / 3),PT = 18共通条件:採血は前回透析より最も経過した時点で行う事
Ceは「最も低くなった時のBUN値」と言えますので,透析回数に関係なくそのままNCeと同等と考えていいでしょう。
で,これらの標準化されたBUN値を使って,
Kt/V = -ln(CeN/CsN), URR = (CsN?? CeN)/CsN × 100
と定義し直すことが出来ます。透析時間を汎用的に t として
週n回 → CsN = Cs × {(72?t) / PT} × (n / 3)
PT = 前回後採血から今回前採血までの経過時間
となります。実際に週3回,4.5時間と週4回,4.5時間の私のデータでは,
週3回:CeN = 15,CsN =?55 × {(72-4.5) / PT} × (3 / 3)
PT = 72? ? 4.5 = 67.5∴ CsN = 55 × (67.5 / 67.5) × (3 / 3) = 55
従って,? Kt/V = -ln(15 / 55) = 1.23
URR = (55 ? 15) / 55 × 100 = 72.7[%]
週4回:CeN = 15,CsN = 45 × {(72-4.5) / PT} × (4 / 3)
PT =?48 ? 4.5 = 43.5∴ CsN = 45 × (67.5 / 43.5) × (4 / 3) = 93.1
従って, Kt/V = -ln(15 / 93.1) = 1.82
URR = (93.1 ? 15) /?93.1 × 100 = 83.9[%]
つまり,週4回,4.5時間で Kt/V=1.2,URR=73[%] の透析は週3回,4時間の透析に換算すると Kt/V=1.8,URR=84[%]に相当すると言うことになります。
Dr.kusakari 曰う「Kt/V = 2以上,URR = 90[%]以上」が現実味を帯びてきました。現行より少し血流量を上げるか,5時間透析をすれば,目標を達成できそうです。
コメント
検索・・・は,私もやってみましたが,英語情報となると・・・
いつも愛腎協サイトは重宝しておりますので,これからも利用させてください。
私も,データが集まり次第,いろんなアプローチをと画策しています。生きた情報ですから,開示しないともったいない。
Mizuhoさん、zeroさん
過分なご評価をいただきありがとうございました。
今回のweekly std Kt/V は、こちらのブログで話題になっているのを
みまして、頻回透析での評価法・計算方法を検索して、当会サイトに
入れ込みました。
皆さんからの要望があれば、可能な限り 応えられるようにしたいと思います。 今後ともよろしくお願いします。
Mizuhoさん,こんばんは。
そうなんです。愛腎協さんのお陰で,モノが言える素地が出来て,助かっている患者も多いと思います。
全腎協さんは政治的な運動にご尽力いただいていますが,スタディに関しては愛腎協さんが日本随一ですね。これからも,維持管理が大変でしょうけど,頑張ってほしいですね。
愛腎協さんのサイトの情報の即時性、時事性、情報量、質の高さなどは
言うに及ばず、ボランティアでされているのが、ホントにアタマがさがりますね。
早とちりしてしまったようですね。失礼しました。
非常に詳しくご説明いただき,有難うございます。サイトの方も判りやすくなったと思います。
仰るように,あくまでもKt/Vureaですから,一つの目安としてしばらく利用させていただこうと思います。 :p
ことば足らず、説明不足でしたね。すみません。サイトの方も加筆しておきます。
赤矢印線の方は、週3回のHDにおいて、1回の透析量 spKt/V=0.9 であった
場合は、週当たりの透析量である weekly stdKt/V =1.6となることを
示しています。
オレンジ色の破線の方は、
目標 weekly std Kt/V値を 2.0とすると、週3回の透析では、
1回の透析量は spKt/V = 1.2 程度必要であるが、
週4回では、1回の透析量は spKt/V = 0.8程度で目標値に達することを
示しています。
「continuous」の直線は まさに腎臓であり、
spKt/V = 1.0 でstd Kt/V weekly は7.0になります。
spKt/V = 1.0とは、体を1つのプールと考え、体内の尿素が1まわりきれいになることですから、1週間では7.0になりますね。
ただし、
UKM(Urea Kinetic Modeling)ですから、あくまでも低分子の尿素を指標とした比較であり、中分子量物質や低分子量蛋白の除去効率については
より詳細な検討が必要と思います。
hiraさん・・・愛腎協のstdKt/Vのページで「ノモグラムの見方」に書かれている内容ですが,週4回ではspKt/V=0.7程度ですよね?
赤矢印の縦軸を示す左矢印がstdKt/V=1.6を示しているがおかしい?
もし,週4回で中1日の透析量がKt/Vsp=1.2以上となれば,stdKt/V=2.6程度になりますから,週3回でのKt/Vsp=2.2程の効果があると言うこと!?
hiraさん
・CAPDで1交換当たりのKt/Vは腹膜と残腎あわせて0.2-0.3と極めて低効率
・これはcontinuousな治療のweekly Kt/v で 2.0程度に相当する
・週3回のHDの場合はspKt/Vが1.3で,weekly Kt/Vが2.0程度になる
・週3回のHDは残腎のある程度残っている方のCAPDの透析量と等しい
と言うご推察,見事です。私はCAPDの事を殆ど知りませんので,その様な見方が出来ておりませんでした。なるほど,このグラフの表している内容は深いモノがありますね。
となると,
・標準的な週3回の透析がいかに不十分な透析量であるか
と言う事がハッキリしたおかげで,
・CAPDが如何に不十分な透析か
とも言えますね。残腎機能が有る間は,そう言う風に考えなくてもいいのかしらん?
hiraさん,有難うございます。素早くタイムリーな情報アップに感謝です。
欧米では既にこのような動的モデルが検討されていたんですね。サンプル数が多いから,仮定から導かれた計算式の検証もし易いと言う事もあるんでしょうがね。
私のデータでも確認してみましたので,別記事でアップします。
(週3回と4回では,思ったほどの差が出なかった)
spKt/Vを個人因子を無視して,ザックリtだけとしてしまえば,横軸は「時間」となりますので,頻回透析が優位に見えますね。
マジックナンバーの168,10080は一週間を「時間」,「分」としているんですね。
愛腎協ウェブサイトのスタディー内に
「Standard Kt/V weekly」を算出するコンテンツをUPしました。
http://www7a.biglobe.ne.jp/~aijinkyo/
hiraさんの一部コメントが,承認待ち状態になっていました。
恐らく「@愛腎協」の部分に SpamKarma が反応してしまったのかも知れません。失礼しました。・・・ちょっと強力にしすぎてしまったかも・・・
で,本題。
私の言葉足らずのようで,[平均化した量]×7 = [一週間の総量] と言う意味でした。
> Std Kt/V の算出コンテンツも 近々 愛腎協サイトにアップしたいと思いますので
待ってました!・・・こういう数値なり,手法が愛腎協さんのサイトに載ること自体が「HHDの普及」にもつながると思います。楽しみです。 :p
「一週間の平均化されたKt/V」:平均化ではないんですよ。
1週間当たり、1週間総量としての透析量という意味です。
Home Dialysisの方が、透析の前と後で採血するBUNの値から算出できるようです。
「Std Kt/V weekly」は欧米では 透析の頻度を拡大できるHome Dialysis用
として研究され、Home Dialysisの方々は、「Kt/V」といえば「Std Kt/V weekly」のことを指示し、こちらを用いているようです。
Std Kt/V の算出コンテンツも 近々 愛腎協サイトにアップしたいと
思いますので、よろしくお願いします。
hiraさん,こんばんは。愛腎協殿には日頃からお世話になっております。いつも有意義な情報を「どこよりも早く,詳しく」御提供下さり,有難うございます。・・・とまぁ・・・堅い前置きはこれ位にして・・・ :p
既にその様な指標は出ていたんですね。スゴイ!調査網。
・・・「在宅血液透析を知る」にも登録しておこう。
まさにそう言う事が言いたかった・・・と言うか,導き出したかったんです。 ただ,どうしても週3回の数値が「超有名 」でしたから,これを引きずってしまっていますが・・・
一週間で考えるべきと言うのは,親サイトの「在宅血液透析を知る」掲示板で,abuyanさんが言及されていますね。
ただ,この「一週間の平均化されたKt/V」をどうやって求めるか?ですね。
恐らく TAC-BUN 辺りかな?とは予想できますが。
BUN変動をノコギリ波形で表した場合の,下降カーブがKt/V,上昇カーブがPCR,それらを平均化したのがTAC-BUN・・・これを週3なら3倍,週6なら6倍って事かな?
このノモグラムを見ると、標準的な週3回の透析がいかに不十分な透析量であるかが、クローズアップされますよね。
weekly で透析量を考えれば、標準的な週3回の透析の不十分さがクローズアップされますよね。
weeklyの発想はCAPDからということと、モノグラムを眺めていて、
思ったのですが、
CAPDで1交換当たりのKt/Vは腹膜と残腎あわせて0.2-0.3と極めて低効率なのですが、ずっと連続的な continuous 治療ので
weekly Kt/v は 2.0程度になることを思うと、
週3回のHDの場合、1回のあたりのspKt/Vが1.3で、
weekly Kt/Vが2.0程度になりますので、残腎のある程度残っている方の
CAPDの透析量と等しいと思いました。
日本で現行使われるKt/V計算式は、当然のことながら週3回で無尿のHDの場合に適応する計算式です。
1回当たりの透析量を求めるにすぎません。
ご指摘されていましたように、週4-5回や、深夜長時間や、連日透析というような透析方法や時間や回数の頻度などが異なれば、1回当たりのKt/Vを求めることは問題が大きいです。というか意味があまりないでしょう。
ですから、海外では、週4-5回や、深夜長時間や、連日透析というHome Dialysisの評価には、1週間当たりの標準化した透析量として評価をされています。
「Standard Kt/V weekly」というそうです。
CAPDの透析量は Weekly で求めますので、発想はそこからきていると思いますが。
weekly で評価すれば、週3回であろうと、週6回であろうと標準化されますね。
http://www.hdcn.com/calcf/std_ktv.pdf
Std Kt/V weekly のモノグラムを見ると
週3回で1回当たりのKt/Vが1.4とした場合、weekly では約2程度ですが、週6回で weekly では約4.5となっています。
あぁ・・・だから「さぁ,どっち!」と言う選択だった訳ですか。
浅い読みで失礼しました。
しかし,患者さんの方からその様な問い合わせがあったとは・・・
前施設では考えられないことですね。医療サイドも大変だ!
>4.5時間HDか4時間HDFかで悩まれる所以ですね。
いえ,アレは実は他所の患者さんが どっちの条件でやるか迫られたという話です.
小生なら,当該患者氏は 5時間HDFか, 5時間AFB なのですけどね.
Dr.kusakariのご発言により,背中を押して戴いた様なものですから,これからも適宜,引用させて戴くと思います。
今回の試みは,まだ数字のお遊びの域を出ませんが,他の患者も含め何れデータが出てくると,新たな指標が導かれるでしょうね。
しかし,さすがDr.kusakari。いろんな側面を視野に入れられていて,またもや勉強になりました。これだけファクターが多い透析治療ですから,一意的な公式がある訳ではなく,いつも仰っているように「元気で長生きのできる楽な透析」であれば言いと言う事ですね。
BUNの様に「どっと」排出される毒素も有れば,β2MGの様に「じんわり」排出される毒素もある。4.5時間HDか4時間HDFかで悩まれる所以ですね。
透析時間が長くなるほど 時間当たりのBUNの除去量・除去率(トータルの除去率を時間で割ったものという意味)が下がります。
開始時にはBUN濃度は高く、後半は低くなるからです。
ですので、長時間になるほど まるで長時間透析をする意味が無くなるかのような数値になってしまいがちですね。
が、リンやβ2MGに目を向ければ、長時間は圧倒的に有利なはずです。
発言の引用を有難う御座います。
Kt/V>2 UNRR>80% というのは、 ほぼ制限無く食べて、元気で、リンが5未満で、Crもそんなに高くない人達を 振り返ってみた時の数値です。
諸般の事情でこの透析量がかなえられないか、 長期透析で傷んでいる人たちは透析回数を増やします。
しかし、数字というか数学、御得意ですね。脱帽。
しっかり食べて、しっかり動けて、リンが5未満、Crが10未満が達成できれば良い透析と言えるでしょう。 β2MGが25未満と言うのも入れたいですが個人差は大きいですね。
最終的には生存率や 入院しない率なども入れるべきでしょうが、 透析以外の治療の巧拙も加わりますね。 高血圧の管理、血糖の管理、etc.
兎に角、状況が許されるのであれば、 出来るだけ沢山透析をする。